カーボンニュートラを実現できるか (その2)

前号で陸上植物(グリーンカーボン)や海洋の植物プランクトンと海藻(ブルーカーボン)は自身重量の1.5倍のCO2を吸収すると説明した。
自然エネルギーなどの導入効果で2050年のCO2排出量が3億トンまで減少したできるとすれば2億トンの植物性細胞を育てればよいことになる。ただ、日本は森林の大部分が成熟している(成長している樹木と枯死し腐敗している量が均衡している)のでグリーンカーボンはほぼゼロで、ブルーカーボンに頼るしかない。しかし実際に頼れるのだろうか。「環境のためならコストは少々我慢して・・・」と言う方も少数ながらおられるが、コストは最終的には資源とエネルギーを消費した結果だから「安くなければならない」と言う観点から論を進める。

海洋の植物プランクトンは観測衛星「みどり」の観測結果が定期的に公開されています(Googleで調べられます)。日本近海はほとんどが0.3mg/立方メートルである。ただ、プランクトンは寿命が短いので年間に何十回も生死を繰り返す。いい加減だが寿命を5日間と仮定すると1年間では70世代になる。また、日光が差し込む深さ20mまで同じ密度だとしても1平方メートル当たりの生成量は鉄イオンの富化で「みどり」測定値の最大値の密度(10mg/m3)を達成できたとして、その70×20=1400倍でもわずか14g/平方メートルだから格段に少ない。
文献[1]p152に日本近海の海藻の生産量は、寒流域で年間25kg/平方メートル、暖流域で5kg,平均は10kgと記され、海藻は植物プランクトンより圧倒的に多い。そこで、日本列島の沿岸で海藻を2億トン生育させられるか考える。2億トンを10kg/平方メートルで割ると2万平方キロメートルの面積が必要だ。日本列島の沿岸総延長は5万kmだから日本列島をぐるりと一周、海藻を生育させた場合は岸から沖合まで400mの幅が必要という計算になる。
文献[1] p143に紹介された北海道増毛町では発酵魚粉、植物性堆肥、鉄鋼スラグなどをヤシ繊維の袋に詰めて重機で掘り返した穴に埋設した。この結果は数年後TBSテレビの番組「鉄が地球と命を守る」(BS‐TBS、2020年6月31日)で報道されたが磯焼けを起こしていた海岸が3年で昆布が沖合150mまで育ったそうだ。逆に言えば目標400メートルの38%でしかない。また、海藻は光が必要だから水深20m程度のまでが生育の限度だろう。その点からも「幅400m」を満たせない海岸が多いはず。
文献[1]の筆者は植物プランクトンと海藻の生育は海水中の鉄イオンと密接に関連すると強調している。それなら安価な鉄イオン源と生じた鉄イオンを広い海に安く拡散する方法を考えればよい。
大量の鉄イオン源を安価に生産する方法は宇部市の杉本幹生氏が「鉄炭団子」を提唱している。作り方は簡単だ{文献[1] p121}。鉄屑と竹炭粉末を粘土とでんぷん糊で固めて軽く焼いた。鉄と炭がちょうど電池のように作用して鉄イオンが溶け出す仕組みだ。漁師さんたちが宇部の海に3トン撒くと海の幸が湧くほど大量に獲れたという。
鉄炭団子を製造販売するベンチャー企業も生まれた(株式会社エプト)。ネットの写真で見る限り5センチ角ほどの厚めのタイル状の塊で、海底に散布するかあるいは網の袋に入れて吊り下げられそうだ。
経済効果が明確な養殖業者はすでに取り入れているのではないか。例えば牡蠣、ワカメ、海苔、真珠貝あるいは沖縄のモズクなどに適用すれば収穫量や品質が改善できるはずだ。沖合まで筏を浮かべているので広い面積をカバーできる。
また、「カーボンニュートラを実現できるか(その1)」で述べたように黒潮を横切るように鉄イオン源を並べれば植物プランクトンは流れに沿って面状に増えるだろう。黒潮の速度はほぼ1m/s(=86.4㎞/日、604.8km/週、2,630㎞/月、31.5万km/年)であるが植物プランクトンを2億トン生育させる面積は7千万平方km必要でありカーボンニュートラルには無理そうだ。しかし、黒潮は植物プランクトンが少ないために黒く見えているのだから鉄イオンの富化で漁獲量増加が期待できる。
また、日本の沿岸で海藻が消滅し魚や貝類、ウニなどが全く生息できない「磯焼け」が広がっている。
熱帯の海に潜れば気づくが、透明度が高い。これはプランクトンが少ないためで、サンゴ礁以外では魚の密度も低い。それなら、ポリネシア、インドネシア、フィリッピンなどの黒潮の源流である南赤道海流が流れる島々で、鉄イオンの富化をすれば効果が大きいだろう。その一つとして、島民に鉄炭団子の使い方や作り方を教えてはどうだろうか。鉄炭団子は安価な素材で、手近な設備で作れそうだから開発途上国でも製造できるだろう。宇部で実施したような効果が再現できれば現地の漁民に喜ばれるだろう。
カーボンニュートラルに及ばないとしてもCO2の吸収を少しでも増やすならやはり海藻だ。インドネシアやアフリカ西海岸でも食用に海藻を養殖する地域があるらしい。また、インドネシアの青年が海藻の多糖類を利用して飲み物用のストローを生産するベンチャー企業を立ち上げたそうだ。このような地域で鉄炭団子を応用すれば海藻の生産額を高められるだろう。
ここまでの検討で、鉄炭団子だけではブルーカーボンでカーボンニュートラル達成の見込みは少ないと予想される。しかし、漁獲量の増加や海藻の生産などで目の前の収入が増えれば少しづつかもしれないがブルーカーボンは増えるだろう。一部の地域で成功すれば他の地域への普及も期待できる。
実施する人が増えればその人たちの中から更に効果的なアイディアも出てくるだろう。カーボンニュートラルの公約である2050年までほぼ30年の期間がある。そのうちに鉄水団子を上回る素晴らしいアイディアを生み出す人も現れるに違いない。
それを期待して、国内、国外に鉄炭団子を広める活動をするのは如何?

文献[1] 畠山重篤、「鉄で海がよみがえる」文春文庫、2012年10月10日

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